「ハチの家のカルピスって薄いよね」
「文句言うなら飲むなよ」

今日は尾浜くんに誘われて、竹谷くんの家で勉強会をしている。
鉢屋くんは不破くんに二択を迫る傾向のある先生の教科の解説をして、尾浜くんは竹谷くんの入れてきたカルピスに文句を言いながらも勉強を見ている。

「ぐう」
「雷蔵寝ないでくれ」

あ、不破くんが悩みすぎて寝ちゃった。

「なまえ、今の説明でどこかわからないところはあったか?」
「ううん、とってもわかりやすかったよ」

私はというと兵助くんにわからないところを教わっている。
兵助くんに苦手科目はないんじゃないかってくらい、何を聞いてもすぐに解き方や解説を答えてくれてとても勉強になる。
失礼だけれど、下手な先生よりわかりやすいかも。






***







勉強会の会場の竹谷くんの家を知らないと言ったら迎えが行くから大丈夫と言われ、玄関を出たら兵助くんと鉢屋くんが立っていた。


「おはよう、なまえ」
「おはよう」
「2人ともおはよう、わざわざごめんね」

兵助くんは私の家も竹谷くんの家も知ってるもんね。
兵助くんと鉢屋くんの組み合わせってなんだか珍しい気がする……。私が知らないだけかもしれないけど。
そんなことを思っていたら、兵助くんが天を見上げて泣いた。

「なまえの私服が見られるなんて……最高か……」
「え?えっと? ありがとう?」
「マジか、朝から兵助ってこんななの」

兵助くんは春だから情緒不安定なのかな?
私服って言ってもそんな大層なものではないんだけど……。
正直兵助くん達の方が様になっていると思うけどなぁ。
スタイルもいいし顔も良いから何着ても似合うよね。
涙を拭くようにとハンカチを渡したら更に泣かれた。

「天使ィ!!」
「うわぁ……」

鉢屋くんはまるで害虫を見るような目で兵助くんの事を見ている。
なんていうか、それはお友達に対して向ける目じゃないと思うの……。

「なあなまえ、このハンカチくれないか?」
「え?」
「代わりにオレのハンカチを渡すから」
「でも……」

そう言って兵助くんは高価そうなハンカチを私に渡した。
あれこれブランドものじゃないのかな?
私のハンカチ、市販の花柄でタオル生地のよくあるやつなんだけどな……。

「涙で汚してしまったし、そのハンカチはおろし立てで使ってないから」
「えっと、その」
「オレなんかのハンカチで申し訳ないけど、汚してしまったものを返すのは流石に悪いと思って、だから交換しよう」
「う、うん」
「ちょっと待て。押し切られるななまえ、違和感を持て」
「三郎は黙ってて。ね、なまえ。貰ってくれるとオレが嬉しいな」

鉢屋くんの言う通り半ば押し切られる形でハンカチを受け取る。
私のお古のハンカチ……兵助くんがいいならいいんだけど。
新品(しかもブランド物)と交換って少し気が引ける。


「そういえば2人が一緒ってなんだか珍しいね」

ハンカチを鞄にしまいながら2人に聞く。

「勘右衛門に兵助となまえと一緒に菓子を買ってこいって言われてな。八左ヱ門は部屋の掃除で忙しいし、雷蔵は迷って決められないし、勘右衛門自体は買ってくる量がエグいからな。オレが阻止した」
「俺となまえだけでいいのに」
「お前は豆腐みたいなやつしか買ってこないだろ」

お豆腐みたいなお菓子ってなんだろう。
でもなんとなく尾浜くんの采配はピッタリだと思う。
不破君だと迷っちゃうし、尾浜くんだとお菓子パーティーになっちゃうんだろうな。あと兵助くんがお菓子を買うイメージが湧かない。

「じゃあお菓子を買ってから、竹谷くんのおうちに行くんだね」
「まあそうだな」







***






通り道にある少し大きめのスーパーで、兵助くんが豆腐のようなお菓子ではなく、豆腐そのものをカゴに入れるのを鉢屋くんが阻止しつつ(結局折れて一個は許可した)何個かお菓子を選ぶ。
勉強で頭を使うだろうから甘いチョコレート系のお菓子と箸休めに塩味の効いたお菓子がいいだろうと鉢屋くんと棚の前で悩む。
兵助くんはお豆腐の棚の前にいる。
豆腐を吟味する兵助くんは真剣そのもので、鉢屋くん曰く選ぶまでは梃子でも動かないらしい。

「バレー部って厳しいんだねぇ」
「バレー部が厳しいっていうか、立花先輩と潮江先輩が厳しいんだよ。文武両道っつって、赤点取ると連帯責任で仲のいい奴らと外周とか課題とかやらされるからな」
「それは、すごいね……」

潮江先輩とはあまり面識はないけれど(食満先輩と張り合っているところは何度か見た)厳しい先輩だと思う。
立花先輩はこの前お話した感じだと、そんなに厳しい人じゃなさそうだったけれど、人は見かけによらないのかな?

「そのせいで何人辞めたことか」
「でも鉢屋くんたちはそんな中でも頑張ってるんだね。みんなしっかり文武両道だし」
「八左ヱ門以外はな」
「竹谷くんだって、文武両道だと思うけど」
「運動はできる、地頭は悪くない、けどヤマは盛大に外すから怖いんだよ」
「竹谷くんはヤマを張ってそこだけ勉強するタイプなんだね……」

そういえば1年の同じクラスだった頃、竹谷くんはテストの返却の時に先生にムラがありすぎるって言われてた気がする。
それでも赤点こそ取ってなかったから勉強自体はできると思うのだけど。

「なまえ、三郎。お菓子は決まった?」
「兵助は……決まったみたいだな」

兵助くんの手には、パックのお豆腐が握られている。
お豆腐って沢山並べられているけど、違いがあまりわからないなぁ……絹とか木綿はわかるんだけど、メーカーの違いとかまではちょっと。
でも兵助くんには違いがわかるんだよね、きっと。


(20200428)
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